INTERVIEW


ふたりの願い

1月から本格的な制作に取りかかりました。私の願いが、この先ふたりの願いになってくれればという思いを込めています。


―――渋谷の街が舞台になっているようですが?

小松:圧倒的に渋谷の街は、私にとってかなり印象が強いようで、ストーリーを進めていくと、脳裏にその残像が浮かんできてしまって。


私自身、どんなささいな出会いにも運命を感じてしまう方。特に人であふれかえる渋谷なんかにいますと、人との巡り合いが不思議でなりません。サウンド面は、角の取れた音色と、遠くで感じられるコード感を意識しています。優しい低音が響いてくれるように、今回もマイク選びとその設定にはかなりの時間を要しました。歌うというよりは大様に語るといった感じがいいのかなぁと思いながらのレコーディングでしたね。


かなり前に作曲していたものだったのですが、「いつかこういう雰囲気の曲も出したいな」とずっと思い続けていて、去年の暮れあたりから具体的に動き始めた作品だったので、私としてはやっと日の目を見る感じです。アレンジしていただいたものを初めて聴いたのは寒い季節で、そのイメージをふんだんに盛り込みながらの制作だったはずなのですが、今聴くと響く音色はとても春めいていて・・・。音が育つというのでしょうか、新鮮さが伝わるのは、そんな楽曲に仕上がってくれたお陰かもしれません。


今までのシングル曲は“マイナーでアップテンポ”という印象があると思うのですが、その逆を行きたいという願望は常に付きまとっていますからね、そういった意味で「ふたりの願い」はほとんど真逆に位置していると思えるものになりました。作品にとって一番いいのは、気を熟すときをちゃんと察知してあげること、無理をしない制作スタイルを持てることが理想だと思っていますので、この曲も今じゃなきゃダメなんだと感じています。


いつも的な流れの中で、作業してきたつもりでしたが「勢いで何とかしようという」という通例の感じは通用しないなと、取り組みだしてすぐに感じました(笑)。たぶんアップテンポな曲は、そんな勢いが心地よさにもつながっていくのでしょうけど、三連リズムのふぁっとした優しい感じは美しく流れてこそのもの。じっくり聴かせる音って難しいですね。


―――歌詞は日常的な内容ですが、人が大切にしたいところはこういう部分だと共感させてくれる歌詞ですね?

小松:日ごろ考えたり、感じたりしていることが出ているので、まさに日常ですね、私のクセなのですが、何か問題が巻き起こると、どんな些細なことでも「私だったらどうするかしら?」とか一応考えてみる習慣を持っていまして...。なのでそんな姿勢が作品に反映されてしまうのは自然の流れですし、他愛のないことをつらつらと描きたかったので、ちゃんと伝わってくれてたことに感動です。この「ふたりの願い」は、そのいつもの行動パターンにプラスして「あなたがいるだけで~♪」という観点から動き出したストーリー展開ですから、あなたありきで満ちあふれた内容になっているはずです。


人は誰かに影響を受けながら生きていくものなんだなと、最近は特に強く感じます。あらゆるもの見て聞いて、知っていたつもりでも、ひとりよりは“ふたり”の方がきっと、もっとず~っとたくさんのことを吸収できるはずですしね、いつもの景色も、あなたの登場によって初めて見えてきたものがあったり、そしてそんな心をいつまでも持っていられたら、毎日が新鮮で楽しいだろうなとも思いますし。


―――小松未歩さん自身は日常的に喜びを大切にされていますか?

小松:たぶん他の人より、ちょっとした幸せでも気分転換できるタイプだと思いますよ。雲間からチラッとさす太陽光線を見ただけで「神様は今、私だけに微笑んでいる」とかって勘違いしていますから(笑)。

―――逆に哀しいことには敏感?

小松:もともとがプラス思考なので、もしかしたら悲しみには鈍感かもしれません。たとえば急に雨が降ってきたとして、もちろん「困ったな」とは思いますけど、父が家庭菜園を趣味にしているせいもあってか「恵みの雨になっている場所もあるんだから」と、どこかで自分を納得させる材料は探してみますね(笑)。

―――そういったことが蓄積されて、歌詞を書くときに出ていくわけですね?

小松:やはり自分が経験していないことは描けませんから、ふんだんに出ているはずです。核になる部分は私自身で、そこから物語が展開されるという感じ。前向きな曲が多いと言われていることからも何となくわかっていただけるかと思います。


―――歌詞に「ありのままを感じられる強さがあることを 愛し合っているというのね」という部分がありますが、これは名言だなと・・・。

小松:何色にも染まらない心で、たくさんのことを受け入れている人って強いなぁと思って。それは拒絶でもないし、世間知らずな感じでもない・・・うーん、うまく言葉が見つかりませんけど、人を愛するときも一直線ですから、貫く心意気みたいなところは似ているのかなと思ったんです。それもこれも”ふたり”でいられればこその強さ。周りとの調和を取りながらも、誰にも触れられない領域を持っている関係ってすごく素敵だと思いますね。


―――歌詞はかなりの時間をかけられたのでしょうか?

小松:生みの苦しみを後回しにしたいので、作業に取りかかるまでにはかなりの時間を要しますけど(笑)、いったん制作に入ってしまうと早い方だと思います。今のところ出来上がるとまた「さあ、次」って思えてますし(笑)。何よりみなさんから届くうれしいお便りが励みになります。


1音1音にウエイトを置いて、とにかく感情を入れないようにと心掛けて歌いました。A・Bメロの抑えた感じが特に難しかったですね。マイク選びをいつも以上に慎重で、エンジニアさんと相談しながら、何度試しに歌ったかわからないくらい、一番時間をかけた作業になりました。結局、低い部分が優しく響いてくれるマイクを選んだのですが、ほんと音も声も生き物なんですよね。1回として同じ響きはないんだなって、今回はつくづく実感させられました。


―――今回は2曲ともヴォーカルは柔らかいというか優しい印象が残りますが?

小松:この穏やかな季節に助けられたところはあるかもしれませんけど(笑)。今回はマイクをそれぞれで選ばせてもらったり、制作の時期やアレンジがまったく違う 2曲でしたので、並べて聴くとどうなるんだろうとちょっとドキドキしましたが、結果的には統一感のある作品になっていたので私自身、このシングルもかなり納得の1枚になりました。実はミキサーさんから「これまでにない斬新なミックスですよ」と報告されていたりで、正直少し不安だったのですが、違和感なく聴こえてくれた音に、そんな思いは吹っ飛んでしまいましたね。この2曲を聴いて“いつもどおりの音”というのは“進化している音”だからこその響きなんだなって改めて感じさせてもらいました。


それぞれの春を探す旅へと向かっていける活力が漲ってくれればと思います。

桜が舞うころ

諦めることばかりに慣れている最近に喝! といった心境からできた作品です。さらさらと流れる曲にしたかったので、突出しない言葉や音作りを心がけました。新たな旅立ちへの不安を、期待へと和らげてくれる桜がハラハラ。そんな情景を思い浮かべてもらえたら嬉しいです。


―――今回の2曲ともに、春めいた淡い印象がありますが?

小松:春の到来が待ち遠しくて仕方なかったので、無意識にそんな気持ちが出てしまったのかもしれません。


―――タイトルも内容も春をイメージさせますが?

小松:まさに日本に生まれて、日本に生きているという証ですよね。日本人の性だと思うのですが“新たなる旅たちの季節”は春で、それは日本で過ごした人なら、誰もが体に擦り込まれてしまっている体内時計のはずなんです。でも社会人になると環境の変化もあまり訪れなくなりますし、そんな変化にも鈍感になっていたり・・・。あのころの自分と今の自分とを比べてみて「頑張れてる?」「惰性で過ごしてない?」という自分への問いかけが、制作のきっかけになりました。

春、桜と言われて一番最初に思い浮かべるのは学校に庭に咲いてた桜。なのでその頃の“不安と希望が入り混じる複雑な気持ち”とかもこの時期になりますと結構鮮明に甦ってきたりして、何となくリフレッシュしたくなる季節です。特に日本の春は人生の分岐点があるので、心に深く刻み込まれる場面も多くなりますしね。あの頃、がむしゃらに頑張っていた姿を今振り返ると「若かったな」とか「甘かったな」とか。気恥ずかしくもありますけど夢をつかみ取った瞬間の感動や、スタート地点に立てたときの喜びは、いつまでもあの頃のまま、新鮮な気持ちで捉えていたいですから。


―――歌詞の中で一番表現したかったのは?

小松:一番は、桜の舞う様子を見て「素敵だな」と思っていられる自分。いろんなことを経験していくと、成長もしますけど、この次に起こることが予測できてしまって驚きが半減したり、些細な出来事を見逃すようになっていったり・・・そうなるのが嫌だなと思ったんです。もちろん桜の美しさはお祭り騒ぎになるくらいなので、些細な出来事ではありませんけど、どんなに忙しくてもふと立ち止まって[あぁ、きれい」と感じられる人でありたい。


目立つループでしたので、それ以外の音も立たせたかったのですが、最終的には強く聴こえる箇所がないような作業の進め方をしていました。さびも何度か歌い直してファルセットで優しく聴こえるヴォーカルを採用しましたし。飛び出る音はなるべく避けて、さらさらと流れる楽曲になるように心掛けました。